<掲載ページURL>
http://www.tec.u-tokai.ac.jp/research/1967.html
ーーー以下,記事転載ーーー
弾塑性力学を応用してものづくりをデザインする 精密工学科・窪田紘明先生
―研究室のテーマにしている弾塑性力学の応用とは?
皆さんはバネを引っ張ったり、針金を曲げたりしたことがありますよね。変形が小さければ手を離すと形が元に戻りますね。しかし、大きく変形させてしまうと形が元に戻りません。このような元に戻る性質を弾性、戻らない性質を塑性といいます。この両方の性質は上手く使うととても便利なのです。 例えばスマートフォンのカメラには光学手ぶれ補正機能が付いています。カメラのレンズをバネで支えて、それをしならせることでレンズの揺れを防いできれいな写真が撮影できるようにしています。これは弾性の性質を使ったものです。 一方で塑性の性質は材料を加工して機械などの部品を作るときに便利です。例えば、引抜き加工という方法で鉄鋼材料を加工すると細くて強いケーブルができます。明石海峡大橋などの巨大な吊り橋にはこうした技術を使って作った鋼材が欠かせません。また鉄のチューブを水圧で膨らませるハイドロフォーミングという加工法では中空で軽い自動車部品を製造することができます。このような塑性の性質を使った加工法を塑性加工と言います。 金属の弾性、塑性の性質は古くから利用されてきました。この技術は自動車、航空機、土木・建築、電子機器、医療機器などの最新の製品の価値を高めるためにも必要不可欠で、今でもこれらの性質の詳細解明や利用法の発展が続いています。
―どのような研究をしているのですか?
本文のイラスト中央にある式は、プラントル・ロイスの式という金属の変形を表す方程式です。弾性と塑性の両方の挙動を表すことができます。窪田研究室ではこの式をベースとしたコンピュータープログラムとオリジナルの実験装置を使ってさまざまなものづくりのアイディア創出にチャレンジしています。
図1 スマートフォンカメラのレンズを支えるサスペンションの変形シミュレーション結果
研究の事例を2つ紹介しましょう。一つ目はスマートフォンのカメラの光学手ぶれ補正に使うばね(サスペンション)の高耐久化です。高画質化、即ちレンズの大型化に伴って耐久性を上げる必要性があり、強くしなやかに動くばねが必要とされています。そこで、企業と共同で20μmの銅合金製のワイヤを複数本束ねて撚り合わせる新しい構造を検討しました。その結果、従来の一本構造のしなやかさはそのままに、耐久性が大幅に向上することを実証できました。さらに、机上で簡単に構造設計ができる数式も開発して、現在技術開発の現場で使われはじめています。 皆さんのスマートフォンにこの技術が搭載される日もそう遠くはないでしょう。
もう一つはハイドロフォーミングへの強制潤滑の適用という技術です。鉄鋼材料でつくられたチューブと金型の間で発生する摩擦により、加工途中で材料が割れてしまうことが問題でした。これでは、強度が高くて軽い構造部材を製造することができません。強度が高い材料は割れやすいのです。 そこで、材料と金型の間に液体の潤滑剤を強制的に注入したらどうかと考えました。そうです、ホバークラフトやエアホッケーのコマが浮き上がるのと同じような原理です。実験装置を設計してやってみたところ、大きな効果があることを確認できました。これは世界で初めての結果で、特許も出願しています。この研究は文部科学省の科学研究費助成事業の支援を受けたもので現在基礎研究段階です。未来の自動車や航空機の構造体への適用を目指しています。
図2 チューブハイドロフォーミングへの強制潤滑の適用
-研究のスタンスは?
企業との共同研究を多く行っていることが本研究室の特徴です。塑性加工や強度設計は実践的な学問ですので、常に産業界の今の課題に耳を傾けなければなりません。職人技のような経験知を科学的に分析して形式知として伝承できるようにすることも重要な任務です。また研究機関として10年後、20年後を見据えた技術の研究も重要で、これらをバランス良く行なってゆくのが良いと考えています。
-学生は研究室でどのように過ごしていますか?
窪田研究室では思いついたアイディアはすぐに試すという方針でやっています。思い通りに行くこともありますが、そうでないこともあります。思い通りに行かなくても次どうするかをみんなで議論して頭が割れるほど考えるということをします。そうすることで、ついに上手くいったときには心から興奮と喜びを味わうことができます。そんな、技術開発者、研究者としての醍醐味を感じて社会に羽ばたいて行ってほしいと考えています。
まだまだ試したいアイディアが沢山あります。これから窪田研究室から出て行く成果にぜひ期待してください。
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