ChatGPTとExcelソルバーを用いたプロセス最適化(第4回 制約条件の考慮)


 生成AIの登場により、生産技術者が自らノーコードでのデータの学習と最適化を行うことが可能になっています。 本記事ではその実践手順を紹介しています。本記事を読むことで、ChatGPTを用いて非線形なプロセスデータから学習モデルを作成し、Excel上での最適化が可能になります。 

 これまで、以下の記事を掲載してきました。

 第1回目の「ChatGPTとExcelソルバーを用いたプロセス最適化(第1回 ChatGPTを用いたデータの学習)」では、ChatGPTを用いた機械学習モデルの簡単な作成法について説明しました。

 第2回目の「ChatGPTとExcelソルバーを用いたプロセス最適化(第2回 ソルバーを用いた最適化)」では、学習済のモデルをExcelに取り込んでプロセスを最適化する方法を説明しました。 

 第3回目の「ChatGPTとExcelソルバーを用いたプロセス最適化(第3回 RBF(Radial Basis Function)モデルを用いた学習)」ではExcelにも実装しやすいRBFモデルでのモデル化を説明しました。 

 以上の内容で、加工の結果のR1を最適にするような、プロセスパラメータ(P1,P2)の組み合わせを求めることが可能になりました。


 一方で、実際の操業では、工場の設備の能力(荷重や電力など)の上限や下限がある場合や、金型の大きさとコストに相関関係がある場合などがあり、それらを考慮したプロセスパラメータの選定も重要です。この記事ではそれらの考慮方法を説明していきます。




【学習済モデルのおさらい】

 第3回の記事での学習済のモデルを、Excelの関数(=RBF_Model(P1.P2))として、Excelのセルに入力した状態がこれでした。張力P1とダイス形状P2の値を入力すると、R1の値がセル上に瞬時に出力できるようになっています。今回、R1の目標値は0に設定しています。また、「R1と、R1の目標値(今回は0)との差」の絶対値をD8のセルに表示するようにしています。

 この後Excelのソルバー機能を使ってD8のセルを最小化していきます。



 この学習済のモデルを可視化したものがこのグラフです.赤の線は、この加工プロセスでの最適加工条件(R1=0)の位置を示しています。最適解は1点ではなくて、無数のP1とP2の組み合わせであることが分かります。

 左の図は、縦軸をR1としてグラフ化した場合、右の図は縦軸を|R1-0|としてグラフ化した場合です。今回、ソルバーによって最小化するのは右の|R1-0|の値です。



【張力P1に制約を持たせずに最適化した場合】

 まず、Excelソルバーを用いて、張力P1に制約を設けずに最適化を行ってみます。

 ソルバーの設定では、目的セルを「D8(=ABS(R1-0))」として最小化し、変数セルとしてP1とP2のセルを指定しました。このとき、P1やP2に対しては上限・下限の制約は付けていません。 

 ソルバーでの最適化の結果として、R1が0に限りなく近づくP1とP2の値の組み合わせが出力されました。ただし、このP1の値は300を超えており、実際の装置では適用できない可能性のある領域でした。こうした点からも、現場で使える最適条件を得るためには、現実的な制約条件を考慮する必要があることが分かります。



【張力P1の上限値の設定して最適化した場合】

 次に、張力P1に上限値として「300以下」という条件を加えて、再度ソルバーによる最適化を実施します。

 これは、例えば製造装置の安全設計上、張力P1が300Nを超えると破損や過剰負荷のリスクがある場合などを想定した設定です。 ソルバー設定画面で、追加の制約条件として「P1 ≤300」を入力し、その他の条件は第2回の記事と同様に設定しました。最適化の結果、P1が300以下で、かつ設計寸法からのずれ(R1)が0になるようなP1とP2の組み合わせが出力されました。 

 このように、制約条件を反映することで、現場で実行可能かつ実用的な最適条件を得ることができます。




【張力P1の上限値を設定した場合と、設定しない場合の比較】

 このグラフでは、P1に上限制約を設けた場合と、設けなかった場合で、それぞれ得られた最適解を比較します。

 ●緑点:制約なし最適化によるP1, P2の組み合わせ

 ⇒|R1-0|は0になっているが、P1は380くらい。 

 ○黄点:P1に300以下という制約を加えた場合の最適解

 ⇒|R1-0|は0になっていて、かつ、P1は300以下。

 グラフを見ると、制約を設けることでP1の値が生産設備の能力の範囲に収まっており、P2の値もそれに応じて変化していることが分かります。製品寸法だけを考えた最適値である赤い線の上を、設備の能力の範囲に収まるように、解が移動していったイメージです。




【まとめ】

 今回は、Excelソルバーの制約条件機能を活用し、「張力P1が300以下」という制約を加えた最適化の手順を紹介しました。単なる数値最適化にとどまらず、現場制約を反映した最適化設計の重要性を感じていただけたかと思います。 

 次回は、さらに一歩進めて、「P2の値が大きくなるほどコストが増加する」という条件も加えた多目的最適化を扱います。つまり、製品の寸法誤差R1を最小にしながら、コストをできるだけ小さくしたいという二つの目的を両立させるアプローチです。(K)





Kubota Lab.

形ある工業製品はすべて、材料を加工することで生まれます。私たちの研究室では、医療機器・精密機械・航空機・自動車などへの応用を見据えた新しい塑性加工技術の研究に取り組んでいます。また、材料特性の評価、変形挙動の数値解析、機械学習を活用したプロセスの最適化、そして製品性能の検証まで、ものづくり全体を視野に入れた統合的な研究を推進しています。