自動車班の研究が,スズキ財団「やらまいか 特別賞」を受賞

 このほど,窪田研究室自動車班がこれまで取り組んできた研究が,スズキ財団より「やらまいか 特別賞」を受賞しました.2026年2月20日に浜松市内で授賞式が行われました.

 「やらまいか特別賞」は,スズキ財団の創立40周年を記念して2020年に創設され,わが国の機械工業技術の更なる発展を目的とし,「何事もまずはやってみよう」という「やらまいか精神」で常に意欲的に挑戦し,優れた功績をあげた研究者を顕彰する事業です.「やらまいか特別賞」は,過去においてスズキ財団の科学技術研究助成及び課題提案型研究助成を受けたものの中から,その成果が将来に渡り,顕著である研究者について顕彰するものです(スズキ財団).

 内容の詳細は以下の通りです.これまで本研究に携わった多くの学生,関係企業等皆様に心より感謝いたします.


【スズキ株式会社 ニュースリリース】

 https://www.suzuki.co.jp/release/d/2026/0220b/

 ※日本経済新聞,日刊工業新聞,中日新聞,静岡新聞,読売新聞にも掲載いただきました.


【受賞名】

 「高強度鋼板を用いた自動車車体の設計・製造技術の開発と車体の軽量化・衝突安全向上への貢献」


【研究内容の詳細】

 ■ はじめに

 自動車産業においては燃費/電費向上と衝突安全性の両立が強く求められており、これに対応するために高強度鋼板の適用拡大が急速に進められている。軽量化を追求しつつ、必要な部位に確実な耐力とエネルギー吸収能力を持たせるには、材料特性を活かした合理的な構造設計と成形制御技術の高度化が不可欠である。

 本研究では、将来の自動車骨格構造の設計と製造に利用できる以下の3つの課題に着目し、それぞれに対して新しい設計指針や成形制御技術を提案してきた。

・高強度薄板材まで適用可能な耐力計算式の開発

・レーザー溶接継手部における強度低下の抑制と設計自由度の向上

・ハイドロフォーミングによる部材肉厚の分布制御を通じた衝突特性の最適化

 いずれの研究も、実験と数値解析を組み合わせて展開し、「材料特性」から「設計・成形・性能発現」まで一貫した視点で課題解決を図った点に特長がある。本稿では、それぞれの研究成果を技術背景・開発内容・検証結果・意義に分けて整理し、自動車構造設計への寄与を紹介する。


 ■ 第1章 高強度薄板材まで適用可能な耐力計算式の開発 (1)~(4) 

1. 技術背景と課題

 高強度鋼板を用いた薄板構造の設計においては、部材の平面部の弾性座屈によって有効幅が縮小する現象を考慮する必要がある(図1)。従来はKarmanの式やNomaの式などの経験式が広く用いられてきたが、これらは引張強さ300〜440 MPa程度の低〜中強度材に限定された適用性しか持たず、近年の980〜1500 MPa級の高張力鋼板には精度が不十分であることが明らかにしている。 また、実部品にはエアコンダクト用の穴などが設けられるが、穴による局所的な強度低下を正確に評価する式は存在せず、設計上のボトルネックとなっていた。

図1 骨格部材の衝突解析例 (近年の高強度薄板構造は(a)のクリップリング破壊になりやすく設計難易度が高い.平面部の局部座屈以降では稜線部で荷重を受けている様子が見て取れる.)


2. 研究のアプローチと特徴

 研究では、静的陰解法有限要素法(FEM)解析を用い、270〜1500 MPa級までの広範な材料強度・板厚・平面幅のパラメータ条件下で詳細な衝突変形挙動を解析した。FEMの結果に基づき残差最小化法によって高精度な有効幅計算式(近似式)を導出した。さらに、部材平面部に穴を設けた場合の強度低下についても検討を加え、穴縁にフランジを設けることで強度回復が可能であることを示した。


3. 主な成果と検証結果

 提案した設計式は、有効幅を材料強度、板厚、平面幅の3変数で表し、従来の式と比べて誤差を10%以上低減した。1500 MPa級の薄板構造体では、局所座屈後もモーメントが増加するクリップリング破壊が支配的であり、これは従来材の前提とは異なる挙動である。フランジ付き穴構造では、短いフランジ(高さ 5 mm)であっても12%低下した部材強度を完全に回復可能であることを実験で実証している。(図2)

図2 骨格部材の衝突変形の実験例 (1180 MPa級鋼板を使用して実証.部材に大きな穴があっても穴縁に高さ5 mmのフランジを設定することで穴部での破壊を回避.)


4. 意義と今後の展望

 提案式により、これまで保守的にならざるを得なかった高強度薄板部材の設計が、より合理的かつ軽量な方向に進められるようになった。また、FEMによる裏付けと実験実証を伴った信頼性のある設計式として、初期設計段階のCADモデル構築を支援することが可能になった。 穴付き部材に対しても強度回復設計のガイドラインが得られたことで、設計の自由度が大きく拡がるとともに、フランジ加工性と構造性能のトレードオフに対する設計的アプローチを可能にしている。 


 ■ 第2章 レーザー溶接継手の強度設計技術の開発 (5),(6)

1. 技術背景と課題

 自動車のさらなる軽量化を目指して、高強度鋼板のレーザー溶接によるテーラードブランク構造が採用されている。しかし、1500 MPa級の高強度鋼板はマルテンサイトを主相とするため、レーザー溶接時の焼戻し効果によりHAZ(熱影響部)に顕著な軟化が生じる。この軟化領域が溶接継手の破断起点となり、設計上の弱点となることが知られていた。

 従来の研究では、主に溶接線に直交する方向(90°)の引張試験が行われてきたが、実際の成形や衝突時には様々な方向からの引張りが加わるため、任意方向引張りによる破断挙動の理解と設計手法の確立が重要である。


2. 研究のアプローチと特徴

 本研究では、HAZ軟化部を有する1500 MPa級鋼板を用い、レーザー溶接継手に対して様々な角度(90°〜20°)で引張り試験を実施した。加えて、DIC(デジタル画像相関法)によるひずみ分布の可視化およびFEM解析を用いて、各角度における破断挙動の詳細な分析を行った。 特に角度45°付近でのせん断応力支配型の破断、角度20°でのひずみ分散型の破断に注目し、継手強度・エネルギー吸収性能との関係を明らかにした。(図3) 

図3 DICによるひずみ分布とSEMによる破断面の観察(溶接線角度θが45°の場合に最もHAZ軟化部にひずみが集中.θを20°にするとHAZ軟化部で割れがなくなる.)


3. 主な成果と検証結果

 最大荷重は、溶接線角度θが90°に対して45°で13%低下、20°で14.8%上昇した。DIC解析により、45°ではHAZにひずみが集中しやすく、局所破断が生じやすい一方、20°ではひずみがHAZ部全体に広く分散することが確認された。FEM解析では、HAZ軟化部のx方向(幅方向)応力が、角度によって引張り・圧縮に転じることを定量的に明らかにし、45°でのせん断応力支配破壊と20°でのひずみ集中回避的な変形となることを明らかにしている。


4. 意義と今後の展望

 溶接継手の強度は、従来のように単に「強度低下がある」ではなく、「溶接角度を制御することで継手強度とエネルギー吸収を設計できる」という新たな視点を提示したことに意義がある。この知見は、衝突時に変形を許容する部位に溶接線を配置するなど、これまで不可能だった設計の選択肢を拓くものであり、今後の衝突安全設計や軽量化構造の設計自由度を大きく広げることに貢献している。


 ■ 第3章 成形パラメータによる自動車骨格の衝突変形制御技術の開発(7)~(12) 

(強制潤滑ハイドロフォーミングによる肉厚制御技術)

1. 技術背景と課題

 自動車骨格部材の一体成形・軽量化手法としてハイドロフォーミング(HF)の利用がある。このプロセスでは、金型内に配置した管材に高圧流体を注入し、材料を塑性変形させて所定形状を得る。しかしこの成形法では、摩擦の影響により部材全体の肉厚分布が不均一になり、特に部材中央部の薄肉化や破断が問題となっていた。従来は金型設計の工夫や潤滑材の選定で対応していたが、成形後に性能(特に衝突特性)を調整する手段がなく、設計変更のたびに金型改修を要するなど、生産性・設計自由度の両面で制約があった。


2. 研究のアプローチと特徴

 本研究では、HFにおける潤滑圧を時間的および空間的に制御(時間差・域差潤滑)する「強制潤滑技術」を開発した。(図4) この技術では、潤滑圧力を成形の途中で切り替える制御(時間差)、および潤滑剤の流れを特定位置で制限する金型構造(微小段差)を用いることで、部材各部の摩擦状態と板厚変化を自在に操ることができる。 さらに、途中止め試験やFEM解析を通じて成形挙動・摩擦分布・変形様式を可視化し、潤滑パターンが肉厚分布と割れ発生位置に及ぼす影響を定量評価した。 

図4 強制潤滑ハイドロフォーミングの模式図(管材と金型の間に高圧の潤滑剤を注入する独自技術を開発.潤滑状態を動的に制御する.特開2023-037121.)


3. 主な成果と検証結果

 時間差潤滑制御により、部材直辺部の板厚を最大20%減少させ、逆に角部の肉厚を逆に10%増加させるなど、成形品全体の肉厚分布を能動的にコントロールできることがはじめて示された。また、域差潤滑制御では、金型表面の潤滑流路の途中に0.1~0.2 mmの段差構造を設けることで、潤滑剤の流れを局所的に抑制し、特定部位での摩擦係数を変化させることに成功している。

 成形後の断面観察やFEM解析によって、潤滑制御によって肉厚分布が設計どおりに変化することが確認され、衝突時の荷重特性やエネルギー吸収性に直結する制御効果が得られている。


4.意義と今後の展望

 本技術により、金型を変更せずとも潤滑制御だけで板厚分布と衝突変形挙動を調整するという新たな設計戦略が提案可能となった。これは、従来の“設計形状で性能を決める”という設計概念から一歩進んだ、“プロセスで性能をコントロールする”設計思想である。将来的には、CAEとの連携により「衝突性能に最適な潤滑パターンを逆算設計する」ような高度な最適化も視野に入る。この手法は、製品設計とプロセス制御を統合する次世代ものづくりの基盤技術として、幅広い応用が期待される。


■ おわりに

 本研究では、材料特性・構造設計・成形プロセスのすべてを有機的に結びつけ、高強度鋼材を用いた軽量・高機能な自動車骨格部材の開発に貢献する3つの技術的アプローチを提案している。 これらはそれぞれ独立した成果であると同時に、共通して“設計自由度を広げ、構造性能を積極的に制御する”という視点で一貫している。今後もこの方針のもとに、より実用に即した提案と研究を進めていく。


参考文献

(1)窪田 紘明, 三浦 希, 吉田 一也:高強度薄板構造体の座屈崩壊時応力状態,自動車技術会 2020年春季大会,(2020). 

(2)Nozomu Miura, Hiroaki Kubota, Kazunari Yoshida:"Stress Distribution of High-Strength Thin-Shell Structure during Buckling Collapse",SAE International Conference,(2021). 

(3)三浦 希, 窪田 紘明, 吉田 一也:フランジ付き穴による自動車骨格部材の曲げ強度の向上,塑性加工学会 2021年秋季講演会,(2021),255-256. 

(4)三浦 希, 吉田 一也, 窪田 紘明:穴縁へのフランジ追加による自動車骨格部材の曲げ強度の向上,自動車技術会論文集,53(3),(2022),585-590. 

(5)天野 由紀子, 吉田 一也, 窪田 紘明:自動車用鋼板のレーザー溶接 HAZ 軟化部におよぼす引張方向の影響,2023年度 塑性加工春季講演会,(2023), 11-12. 

(6)天野 由紀子, 吉田 一也, 窪田 紘明:自動車用鋼板のレーザー溶接 HAZ 軟化部におよぼす引張方向の影響,2023年秋季大会学術講演会(自動車技術会),(2023),1-6. 

(7)窪田 紘明, 三上 拓徒, 吉田 一也:ハイドロフォーミングにおける強制潤滑技術の開発,塑性加工学会 2021年秋季講演会,(2021),281-282. 

(8)石井 英, 宮澤 翼, 三上 拓徒, 吉田 一也, 窪田 紘明:ハイドロフォーミングにおける域差・時間差強制潤滑技術の開発,第73回塑性加工連合講演会,(2022),383-384. 

(9)天野 由紀子, 三上 拓徒, 吉田 一也, 窪田 紘明:強制潤滑を用いたハイドロフォーミングにおける成形特性の検討,第73回塑性加工連合講演会,(2022),381-382. 

(10)Takuto Mikami, Yukiko Amano, Kazunari Yoshida, Hiroaki Kubota:Development of Forced Lubrication Technology in Tube Hydroforming,10th International Conference on Tube Hydroforming,(2022),133-140. 

(11)天野 由紀子, 三上 拓徒, 吉田 一也, 窪田 紘明:強制潤滑を用いたハイドロフォーミングにおける成形特性の検討,鉄鋼協会 2022年春季講演大会,(2022),26. 

(12)Hiroaki Kubota, Takuto Mikami, Yukiko Amano, Suguru Ishii, Tsubasa Miyazawa, Kazunari Yoshida:Development of Time and Area Dependent Forced Lubrication Technology in Hy-dro-forming,Proceedings of the 14th International Conference on the Technology of Plasticity (ICTP 2023) - Volume 3,3,(2023),318-325. 

以上


Kubota Lab.

形ある工業製品はすべて、材料を加工することで生まれます。私たちの研究室では、医療機器・精密機械・航空機・自動車などへの応用を見据えた新しい塑性加工技術の研究に取り組んでいます。また、材料特性の評価、変形挙動の数値解析、機械学習を活用したプロセスの最適化、そして製品性能の検証まで、ものづくり全体を視野に入れた統合的な研究を推進しています。